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SaaS同士をつなぎ、利用者や業務の情報を守るには、支援ツールを使うのが効果的だ。データ連係を仲介する「iPaaS」やSaaSの運用管理のSaaSなど、製品が急速に充実している。各ツールの基本的な機能と主要製品の特徴を押さえて、SaaSの効果を引き出したい。

 SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を組み合わせたシステムを構築する要はデータ連係だ。円滑なデータ連係を実現するには、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を用意するSaaSを選ぶとともに、データを連係するためのツールであるiPaaS(インテグレーション・プラットフォーム・アズ・ア・サービス)が役に立つ。

 複数のSaaSへのアクセスを一元管理するためのシングルサインオンを実現するツールの選定も重要な要素だ。IDaaS(アイデンティティー・アズ・ア・サービス)などのID管理システムを通じてアクセスを制御する。米マイクロソフトの「Azure Active Directory(AD)」や米オクタが提供するサービスがIDaaSの代表例だ。

表 主なSaaS活用支援ツールの例
データ連係や管理業務を手助けする
表 主なSaaS活用支援ツールの例
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SaaS間連係をノーコードで

 iPaaSとはSaaSを含む業務システム同士をつなぐことができるサービスを指す。原則としてプログラミングをすることなく、Webブラウザーの画面上でアプリやクラウドサービスを選んだり、パラメーターを設定したりするだけで連係作業は済む。

 SaaS間のデータをつなぐ目的は主に3つだ。異なるSaaSを組み合わせて1つのシステムのようにワークフローを組む、社員のIDや商品番号などのマスターデータをシステム間で共有する、SaaSから出力される生データにETL(抽出・変換・ロード)処理を施し、分析などに利用できる、である。

 国内ベンダーの製品の代表例が、アステリアが開発・提供する「ASTERIA Warp」だ。オンプレミス版を含めて9879社が導入(2022年12月)し、データソースとして連係できるSaaSやパッケージソフトの数は100種類以上という。米アマゾン・ウェブ・サービスのクラウドサービス、米グーグルの「Gmail」をはじめとするWebアプリ、労務管理SaaSの「SmartHR」や名刺管理の「Sansan」など国内の主要なSaaSと標準で接続できる。

 SaaS同士をつなぐ作業は原則としてノーコードだ。接続対象のシステムを表すアイコンをドラッグ&ドロップし、接続先のシステムに入力するデータと出力するデータの項目を結びつける。GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)上で操作できるわけだ。

ASTERIA Warpの操作画面。iPaaSを使えばアイコンを並べた直感的な操作で接続設定できる(画像提供:アステリア)
ASTERIA Warpの操作画面。iPaaSを使えばアイコンを並べた直感的な操作で接続設定できる(画像提供:アステリア)
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 アステリアの平野洋一郎社長は、SaaS同士を接続する上での課題について、「SaaSのAPIの仕様変更に気をつける必要がある」と話す。iPaaS製品を使えば、APIの仕様が変わっても原則としてベンダーが変更に応じて製品を改修するため、ユーザー企業は変更の影響を最小限に抑えられる。例えばASTERIA WarpはSaaSのAPIの仕様変更に応じてコードを迅速に改修する体制を築いているため、ツールを使ってデータを連係すれば、仕様の変更があっても問題なく動くという。

 海外ベンダーの製品の中では米ザピアーの「Zapier」がSaaSを組み合わせたワークフローの作成に強みを持つ。GUI上でシステム同士をつなぎ、ワークフローを構築・自動化できる。5000以上と多数の接続先を持つ。

 既存の業務システム向けにAPIを開発・管理する必要があれば、米セールスフォースの「MuleSoft」製品が適している。例えばトリドールホールディングスはデータレイクに蓄積したデータをSaaSやBIツールと連係させるための機能を開発するのに「Anypoint Platform」を使っている。Anypoint PlatformはAPIの開発に加え、データの監視・診断、エラー検知といった機能も備える。